命の値段が決まる時

  ●病院へ行くと風邪は治るのか

  風邪で高熱が出て病院へ行けば、まず抗生物質と風邪薬が処方される。それはなんの疑いもないことのように見える。しかし、医学的な見地からすれば、

  風邪はウイルスが原因の病気である。従って細菌にしか効果のない抗生物質は、効かないはずである。それでも抗生物質が投薬されるのは、二次的に

  細菌感染が起きては肺炎になるのを防ぐ意味があるからなのだ。ところが、薬をもらう側は風邪に抗生物質は効果があると信じている。高熱があって、

  抗生物資を出さなければ、患者側から投薬要求されることもある。風邪は開業医の収入源である。風邪に対して処方される薬は、抗生物質だけでなく、

  総合感冒薬、咳止め、去痰剤、解熱剤と様々な種類がある。しかし、これらの投薬はいずれも風邪の罹患期間とは関係ないとされている。つまり、早く風邪が

  治るのではなく、あくまでも症状の軽減である。風邪に抗生物質が効果がないと分かっていても、処方されている。これは海外でも同じ状況のようだ。

  ここには、医療と言うものが、ある種のイメージで治療効果を上げているとも考えられる。「医者で薬をもらう」という意味は、単に医学的・科学的な意味だけでなく、

  医者にかかると言う大きな暗示もある。そこには薬が科学的に効果がるかどうかは問題ではなく、医者から薬をもらうと治ると言うブラセボ(偽薬)の効果もある。

  その状況で抗生物質が使用されれば、効果があるなしは意味がなくなってくる。医療は全て科学的な根拠だけで、効果を上げているのではないとも言え、

  ある意味では無駄な金がそこに注ぎ込まれ、医者の大きな収入にもなっている。医療費を削減しようとするわが国にとって、風邪も標的になるかも知れない。

  風邪は患者責任の下に、自分で薬を購入し、治療すると言う方向になりかねない。そこには、「医者にかかる」と言う患者の求める安心感も否定していく危険が

  含まれることを、了解しなければならない。医療を見る時、科学的なものだけで割り切れない部分も多く、合理的とか、経済性だけで追求出来ないものなのだ。

  ●日本では何故カルシウム拮抗薬がはじめに処方されるか

  脳出血は、患者への医学的な知識の普及と同時に、降圧薬の使用で減少してきた。降圧薬は内科の使用する薬の中でもはっきり有効性が示された薬である。降圧薬

  が使用され始めた頃は、降圧利尿薬が主流であったが、今世界的な第1選択薬はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)

  である。しかし、日本ではカルシウム拮抗薬の使用量がまだまだ多い。この原因にはいくつか考えられるが、最大の理由はカルシウム拮抗薬を日本の製薬会社が

  独自に作っていて、海外の製薬会社から輸入したものを使用するより、自社が製造特許を持っているものを販売したほうが会社の利益が大きいことと関係する。

  カルシウム拮抗薬をもつ各製薬会社は、循環器系の学会で強い影響力を持つ教授を通じて、臨床試験を行い、全国の大学病院の医者にカルシウム拮抗薬の優秀性

  を説くことになった。医者が薬の知識を得るのは、医学部の薬理学の講義からではなく、医者になり、MRから直接宣伝として聞くことを通じてなのである。専門であれば

  学会の講演などから知識を得ることができるが、開業医となれば、なかなか中立の意見としての薬の情報を知ることが出来ないのが現状である。製薬会社が宣伝用に

  配る医療記事も、雑誌のタイアップ記事からの抜粋が多い。医学系の雑誌のページを買い取り、権威のある医者や教授に対談させ、自社の薬が有利になる様な結論

  の記事にして、それが開業医などにばらまかれることになる。教授達にとっては、そういう対談に出ることは、原稿料や講演料と言う形で金が入ってくるし、自分がそこ

  での権威者であることをアッピールできる。本来スポンサーのいない客観的なデータで討論されるべきで、科学的なデータであれば、スポンサーは必要ないはずだ。
  
  しかし、情報提供者が製薬会社であるから、偏ったデータになりかねない。大学病院の医者は、新薬治療で使用したことのある薬や、上司の指示で薬を選択するが、

  開業医では営業に訪れる製薬会社のMRからしか情報を得るのは難しいので、選択の理由に医学的根拠のないことが多い。研究会と称する各製薬会社が主催する

  勉強会には、自社が世話になった研究者、或いは、指導に当たった研究者の学閥の傘下にある病院の部長クラスに講演をさせ、開業医を教育することになる。そこには

  客観性に欠け、どうしても自社の宣伝的な要素が大きくなる。そのような環境では、冷静な判断をすることは難しく、ある種のすり込みが行われ、、開業医の第1選択薬

  はカルシウム拮抗薬となってしまう。カルシウム拮抗薬に問題があるわけではないが、医者が初めに降圧薬を選ぶ基準が余りに曖昧すぎることが大きな問題なのだ。

  ある雑誌の対談で、日本の降圧薬の権威が、海外の降圧薬の研究者から「何故、日本ではカルシウム拮抗薬の使用が海外に比べて多いのか」と言う問いに、科学的

  なデータを出せなかった。これは日本には降圧薬の大規模調査がないので返事が出来なかったのだ。海外では大規模調査に基ずく薬の使用ガイドラインを作っているが

  未だに日本ではなく、その為に本当の意味で日本人にはどの降圧薬が適しているのか証明できていないのが現状である。本来は医師会或いは学会で独自の調査が

  出来ればいいのだが、日本では研究者の横のつながり、つまり学閥を越えた研究、調査が出来ない為に、大規模な調査をして情報を得ることが出来ない。医者の裁量

  に任せて、降圧薬を自由に使用できた時代は終わりかもしれない。患者のメリットを優先し、薬の医療効率、いかに安い薬で、最も効果的かという視点で、薬が使われ

  ていくべきであろう。